伊丹康二

まちは誰かのものじゃない。
「自分ごと」で変えていく

伊丹康二

教授

住環境・まちづくり領域

Profile

大阪大学工学部建築工学科卒業、同大学院博士後期課程修了、博士(工学)。
豊中市政研究所(現・とよなか都市創造研究所)、大阪大学大学院助教などを経て現職。建築計画学をバックグラウンドとし、郊外住宅地の再整備、公共施設の再編、建築からのまちづくりをキーワードに研究を進める。
これまで法政大学地域政策研究賞奨励賞、都市住宅学会論説賞、国際交通安全学会賞(著作部門)などを受賞。

まちは誰のもの? 「自分ごと」への目覚め

あなたは、自分が住むまちを心から「自分のまち」と言えるでしょうか? 誰かがつくってくれると考えていませんか。

私は公共施設や郊外住宅地を対象に「住民がその場所をどれだけ“自分のもの”と感じられるか」をテーマに研究しています。幼い頃から建築に興味のあった私が、建築よりも住民の力に関心を持つようになったきっかけ。それは大学院生時代に参加した「千里ニュータウンの再生を考える市民100人委員会」でした。地域のことを歴史も含めて理解したうえで真剣に語り合う住民の姿に圧倒され、「まちは専門家がつくるのではない。住民こそが主役なのだ」と痛感。その体験が研究の原点です。

まちと人々のつながりを“使う”から“関わる”へ

私の研究では、住民がまちの魅力を再発見して“自分ごと”として関わるための可能性をさまざまな視点から探っています。

2020年からゼミ生とともに取り組んできたのが、豊中市のスポーツ施設での取り組みです。

「みんなでつくる広場」を目指し、学生考案のキャラクターを使った運動カレンダーづくりの企画や、災害時の避難生活を想定したキャンプイベントを開催。特にキャンプイベントは、施設が災害時の避難所に指定されたことをきっかけに企画しました。地元のボーイスカウトや自主防災組織と連携し、ブルーシート1枚で寝床を作る体験や防災食づくりを実施。楽しみながら結果として防災への理解を深めてもらうことを目指しました。

これらの取り組みは、公共施設を「使う」から「関わる」へと意識の転換を促すことを意図しています。施設を舞台にしたイベントに楽しみながら関わってもらうことで、「ここは自分にとってなじみのある場所だ」と思うだけでなく、「ここに来れば、自分も何かができる場所だ」と思えるのではないかと考えています。これらの取り組みに参加した皆さんの反応を分析することで、さらなるアクションにつなげる。そのような循環型の実践研究を行ってきました。

また、戦後、計画的に作られた郊外の住宅地にも注目しています。短期間で開発された住宅地に対して「わたしのまち」と感じる人をいかに増やすのか、住民が地域に抱く愛着の構造や、既存の空間を柔軟に活用する方法など、様々な角度から研究を進めています。

主体的にまちを楽しむ、そんな人を増やしたい

私が目指すのは「わたしのまち」「生活環境は自分たちでつくりあげるものだ」という考え方がもっと当たり前になる社会です。

どれほど便利な場所でも、どれほど素敵な場所でも、主体的に関わる機会がなければ「我がもの感」は育ちません。少し手を加えたり、人と関わりながら使ったりするきっかけが必要です。

私は大学という中立的な立場だからこそ、行政や市民と協力し、新しい関わり方を実験できると考えています。これからも研究を通じ、皆さんが自分のまちともっと自由に、もっと楽しく関われる仕組みを模索していきます。

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