地域コミュニティの再生、
そのヒントは「村」にあった
鎌田誠史
Profile
株式会社国建建築設計部で勤務し、神戸芸術工科大学大学院(助手)、有明工業高等専門学校(准教授)などを経て現職。
研究のキーワードは「集落空間構成」「居住空間」「デザイン人類学」など。
主に伝統的な集落空間にまつわる研究を行っている。博士(芸術工学)、1級建築士。一級建築士事務所カマタセイシデザインラボ代表。
地域の知恵を今に生かす。集落研究の可能性について
これからの暮らしや社会のあり方を考えるとき、大切なのは「新しいもの」ばかりではありません。むしろ、先人が昔から築いてきた生活の知恵、つまり「地域の叡智」に学ぶことこそが欠かせないのではないでしょうか。
そう考える私の研究テーマは「伝統的な集落空間の復元的研究」。特に集落がどのように形成され、人々がどんな工夫を重ねて暮らしてきたのかを、さまざまな角度から見つめ直し、可視化してきました。さらにその成果を活用し、現代の地域社会の課題解決にも役立てる──そんな実践的な研究にも力を注いでいます。

「人が集いたくなる場所」とはどういう空間かを考える
実際に地域と関わりながら進めている取り組みの一つが、兵庫県芦屋市・芦屋浜団地の再生プロジェクトです。たとえば使われなくなっていた集会所について、団地の人々のニーズに応えて地域交流の拠点へと生まれ変わらせました。
「生まれ変わる」とはどういうことか? 建物をただ直すだけでは人は集まりません。どうすればよいかを考え抜き、たどり着いたのが、単なる集会のための場ではなく「子育て空間」という答えでした。
親子が安心して過ごせる場所をつくれば、地域ににぎわいが生まれる。この発想の背景にこそ、私が沖縄・台湾・中国の伝統的な村々で行ってきたフィールドワークの経験があります。どの地域でも、親子を中心に人と人とが支え合うコミュニティが存在していました。それは特別なことではなく、暮らしの中で自然と育まれてきたもの。そうした現場の経験が、今の地域づくりにおいても大きなヒントになったのです。
プロジェクトでは他学部の先生たちとも連携し、専門を超えた学びを広げています。大学という多様な知が集まる場所だからこそ実現できる、新しい地域づくりのかたちを実行しています。

「生き抜く知恵」を今の時代へつなぐ
伝統的な集落の研究では、集落の形成における先人の叡智を読み解くことを追究しています。特に日本では古来、厳しい自然の中で限られた資源をうまく使いながら生活の場を築いてきました。山や谷、水の流れ、風の通り道といった自然の特徴を読み取り、その土地に合った住まいや集落を作り上げていたのです。
そこには、災害や気候の変化に対応しながら命をつなぐ「生存の文化」があり、伝統的な空間や暮らしの中には、現代社会が直面する課題を乗り越えるヒントがたくさん隠れています。今後も災害や震災などが多発しうるだろう日本において、「生存」の場という観点から今一度、各地の集住環境を丁寧に読み直すことはとても重要ではないでしょうか。
私の最終的な目標は、小さな地域でも人々が支え合いながら安心して暮らせる、そんな「生存のための集落デザイン」を明らかにすること。伝統と現代をつなぎ、確かなコミュニティの形を提案していきたいと考えています。