資源と廃棄の課題を解決する
「着るナタデココ」実現へ
澤渡千枝
Profile
工学博士・学術博士。静岡大学教育学部教授を経て現職。繊維・高分子科学、被服材料学について研究を進める。
ナタデココと衣服には意外な共通点がある
食品のナタデココと衣服の素材が近い存在だなんて,面白いと思いませんか?私は大学院生と共に、このBC繊維を使って衣服などの生活素材を作る研究に取り組んでいます。目指すのは、いわば「着るナタデココ」の実現。微生物が生み出す素材が、ファッションの世界で新たな可能性を広げていく、そんな未来を目指しています。

写真1
研究が描く未来の暮らし
私たちの研究は、地球に優しい循環型社会の実現を目標としています。
今、多くの製品に使われている化石燃料を原料とするプラスチックは、便利である一方、環境への負荷は大きく、使い捨ての大量消費が問題になっています。そこで注目されているのが、私たちが研究しているバクテリアセルロース(BC)です。BCは微生物によって作られ、石油資源を使わずに生産できる上、使用後は自然に還ります。まさに「育てる素材」ともいえる存在です。
BC繊維の太さは1マイクロメートル(1mmの1000分の1,写真1参照)と非常に細かく純度が高いため、従来の布とは異なる質感や形状を表現できる可能性もあります。また、BCには「水素結合で接着できる」という特徴もあり、縫わずに形を作ることも可能です。加工次第では、皮革のような素材にも変えることができ、ミシン縫いで写真2のようなパッチワークのビスチエも作れます.
こうして、資源を無駄にせず、地球に優しいモノづくりが当たり前になる未来を描いています。

写真2
豊かな自然環境と健康
環境に配慮した素材が広がることは、海や森林などの自然を守ることにもつながります。たとえば私たちの研究で開発した「革のようなBCシート」が靴やカバンに使われるようになれば、動物由来の革を使わなくてもすみ、サステナブルなファッションがより身近になります。
また薬学部と連携して、肌に優しい保湿シートや女性の健康をサポートする製品の研究も進行中。自然にも人にもやさしい素材が、健康的な暮らしを支えていく未来が見えてきました。

写真3
快適で安全な生活
BCから作られるスポンジのような素材(写真3)は、クッション材や衝撃吸収材として活用できる可能性を秘めています。さらに、アレルギー物質を含まず、肌に直接触れる製品にも安心して使えるのが魅力です。
環境への配慮だけではなく、人の暮らしや健康にも寄り添うBCの研究。新しい素材が、地球と私たち両方を守る“未来のスタンダード”になっていく。そんな社会の実現に向けて、これからも研究を続けていきます。