デザインが持つ力で
空間・暮らしを編み直す
森本真
Profile
日建設計、日建スペースデザインでの勤務を経て現職。東京芸術大学、広島市立大学の非常勤講師などを務める。
これまでにデザインフォーラム公募展入選、INAX店舗デザインコンテスト金賞、JCDデザイン賞奨励賞、インテリアプランニング賞特別賞などを受賞。
モノから空間へと広がったデザインの視野と創造力
大学でプロダクトデザインを学び、モノの形や機能を考える面白さに夢中に。けれどモノ単体ではなく、それが置かれる空間まで視野を広げると設計はもっと面白くなる……。そんな気付きからインテリアデザインの世界へと進みました。単にデザインするのではなく、物がどのように空間と関わり、使用者とどのように相互作用するのかに焦点を当てたデザインへと視野を広げたのです。
卒業後はホテルや商業施設、オフィス、公共施設、住宅など多様な空間をデザインし、各々に合わせた独自の設計手法を探求しました。そしてデザインに対するアプローチが広がるにつれ、次第に教育への関心も高まることに。デザインの知識や技術を次世代のデザイナーに伝えることが私の使命だと感じ、大学という環境で教育活動を始めることに決めました。今では、デザインの面白さや可能性を学生に伝え、共に学び成長していくことに大きなやりがいを感じています。

デザイン≠アート。デザインとは、課題を解決する手段
私の研究テーマは「生活に密接に関わるデザイン」を再考することです。特に家具や照明、インテリアプロダクトまでを含む、空間全体に影響を与えるデザインに注力してきました。
たとえば、インスタレーション作品「竹林」では、廃校の教室を活用し、学校の裏山から竹を切り出して教室に並べ、訪れた人々がくつろげる空間を展開しました。来場者は靴を脱いで入室し、床に座りながら竹林の音を聞く。機能的なデザインとしての実践的な要素を取り入れることで、アートに触れるだけでなくリラックス体験も提供しました。単なる装飾的な作品ではなく、使われる空間や体験を重視し、デザインの力を最大限に引き出すものとなったと自負しています。
アートが自己表現の手段である一方で、デザインは課題解決の手段です。そして限られた条件の中で最適な解決策を見つけることにこそ、デザインの魅力・面白さ・素晴らしさがある。この視点を持って、私は作品制作や実践を通じ、課題解決型のデザインを探求しています。

考える力を育てる。デザインの学びへの挑戦
これまで、教員としてデザイン教育に携わると同時に、カリキュラムの改革にも積極的に携わってきました。現代社会では、単に技術を学ぶだけでなく、課題を発見し解決策を導き出す力が必要とされています。デザインは、物や空間を作り出すだけではなく、人々の暮らしをより良くするための手段。そのため私は学生に対し、受け身で取り組むのではなく、日常生活の中にある多様なテーマに主体的に取り組んでもらいたいと考えてきました。身近な課題に積極的に向き合うことで、未来のデザイナーとして求められるスキルを身につけることができると信じています。
デザインの最も重要な目的は、人々の幸せを実現すること。この視点はインテリアデザインに限らず、すべてのデザイン分野に共通しています。
これからの社会において、デザインは人・モノ・空間、さらには社会全体との新たな関係性を構築するためのツールとして、ますます重要になっていくはず。私はデザインを通じて、学生たちにそのような社会的な視点を養い、快適で健全な生活環境を作り出すための力を育成していきたいと考えています。