北村薫子

「心地いい」を可視化する。
空間デザインに新たな風を

北村薫子

教授

住環境・まちづくり領域

Profile

奈良女子大学大学院博士課程を修了。博士論文は『建築仕上げ材の質感評価に関する研究』。
2010年フランス国立自然史博物館研究所にて在外研修。
専門は建築環境工学で「光環境計画」「内装計画」「色彩計画」をキーワードに研究を進める。
共著に『都市・建築の感性デザイン工学』(朝倉書店 2008年)、『光の建築を読み解く』(彰国社 2015年)、『住まいのデザイン』(朝倉書店 2015年)などがある。

空間の印象を決めるのは
素材と光だということ

「この部屋、なんとなく落ち着く」。そう感じた経験はないでしょうか。実はその印象には、素材の質感や光のあたり方が深く関係しています。私は大学卒業後に企業で展示会設営を担当していた時に、照明によって布の見え方が大きく変わることに気付きました。その驚きと興味が今の道に進んだきっかけです。

興味を深掘りしたいと大学院へ進学し、素材の質感が人の心理に与える影響を研究。建材表面を測定した際、表面の手ざわりや美しさといった感覚を可視化することに魅力を感じ、研究者の道を選びました。

“少しずつ”の蓄積。測定装置で木材の変化を追究

現在、私は2つのテーマに取り組んでいます。

1つは木材の色・艶の経年変化。新しい木材が時間や光(紫外線)によってどう変化するかを長期的に測定しています。数日、数カ月では変わらないように見えても、年単位だと明らかな変化が現れます。その変化をあらかじめ予測できれば、家具や建築材料を扱う空間デザインの提案はより確かなものになりますし,メーカーが顧客からの「思っていたのと違う」というクレームを防ぐ手助けになります。

測定では専用の装置を使い、さまざまな条件で木材の変化を観察します。南向き、北向き、窓越しなど自然光の当たり方が異なるため、その影響をチェック。こういったデータを蓄積することで、当初は予期できなかった変化に気づくことが可能になり、より安定した品質管理が実現できるようになるでしょう。

木材の経年変化に関する研究は、建築分野で関心が持たれ始めています。この研究が建築デザインの分野にとって重要な役割を果たすことを期待しています。

建築で光のふるまいを測る面白さ

もう1つの研究テーマは、建築空間における光環境の測定です。日本建築学会との連携プロジェクトとして、毎年、著名建築家の作品で光の広がり方や効果を測定します。

光の状態を可視化することにより、建築家が意図した光の効果と実際の光環境を比較検討します。

たとえば「この部屋は居心地がいい」と感じた時に、自然光がやわらかく広がる様子が心地良いのか、小さな窓から差し込むシャープな光に心惹かれるのか。また建築家が意図したように光が表現されているか、別の作用が働いているのかといった、建築の「感じ方」を客観的に捉える試みを続けています。

まだ業界にない“質感の共通言語”を

現在、家具や建築素材の色や強度は数値化されていますが、「質感」や「触感」といった要素の定量化は難しい分野です。私が挑んでいるのは、この分野に関する共通の基準をつくり出すことです。質感や触感を客観的に示すことができれば、建築家や設計者の意図する空間を技術的な裏付けで支え、快適な空間設計に近づけることができるようになります。

またこの取り組みは、専門家にとっての利便性に加え、一般の人々にも影響を与えるものです。新しい材料選びが可能になり、デザインの自由度も格段に広がる。そして自分に合った心地よい空間を選びやすくなる未来が広がります。誰もが「心地よさ」を選べる社会を目指して、新しい“共通言語”の構築を進めていきます。

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