絶対的な快適なんてない。
「暮らしを楽しむ家」を増やす
山田由美
Profile
株式会社竹中工務店設計部での勤務を経て、山田由美建築設計事務所主宰。
京都工芸繊維大学、武庫川女子大学にて非常勤講師を勤め、2010年より現職。一級建築士。
主な作品は奥池の家(住宅特集掲載)、八幡の家、逆瀬川の家、プラザK.I.T(建築学会作品選集掲載)、宇多野コーポラティブハウス(グッドデザイン賞受賞)など。
「自分らしい暮らし」を支える設計とは?
建築家として実務に携わりながら、住宅設計の可能性を多角的に研究してきました。
印象深いのが、京都市のコーポラティブハウスの設計です。コーポラティブハウスとは、住宅を取得したい人が集まって組合をつくり、共同事業主として土地取得から設計、工事発注まで行い、それぞれの理想の住まいを建設する住宅形式のこと。私たちのプロジェクトでは、難しいとされていた木造建築においてスケルトン・インフィル(構造と内装を分離する手法)を可能にし、柔軟な空間づくりを実現。間取りや内装の素材を居住者自身が選び、将来の暮らしの変化にも対応できる点が評価されグッドデザイン賞を受賞しました。

営みの記憶を宿す建物に新たな価値を見出す
伝統的な住宅のリノベーションにも携わっています。
黒光りした柱や土壁の風合いといった時を経た建物ならではの魅力は、新築にはない魅力がいっぱい。そういった魅力を継承するべく、古民家や町家を再生する際には新旧の素材、構法を調和させる手法を探ってきました。
また“昔から地域に存在する民家”の存在は、まちのアイデンティティーや人々の愛着を育む上で注目すべきポイントでもあると考えています。これまでの町並みを継承した上で、地域に新たな魅力を加えていく。そういったムーブメントに関わることにやりがいを感じています。

「自分でできる」を広げるために
他に、個々人がDIYでリノベーションする方法の研究も進めています。
近年は建設コスト上昇を背景に、家を新築したり大々的にリノベーションをしたりということがなかなかハードルの高いものになってきました。一方で、住空間に対する意識の高い人が増えてきている。そういう人たちが自分の力で家をカスタマイズできるような、そういった方策を考案しています。
たとえば「暮らしのラボ」と名付けた木造住宅では、「女性の力でできるDIY」をテーマに、学生と一緒に和室を洋室にチェンジ。現代のライフスタイルから和室の問題点を挙げ、土壁でも衣類ハンガーを掛けられる工夫などを施しました。
今は押入を学習スペースに改造する計画や、DIYをより簡単にする道具の開発なども進めています。

楽しい暮らしの記憶が、楽しい未来をかたちづくる
住まいを真に豊かな空間にするには、機能性の追究だけでは足りません。子どもの頃に家族と一緒に立てた日よけや、夏の夜に吊った蚊帳の記憶など、心に深く残る日常の場面をつくるのが住宅の力。
暮らしを楽しめる家とは、地域の風土や暮らしの記憶と結びついてこそだと考えます。
そういった家々を実現すべく、私は今後も伝統的な建築の価値を再発見し、地域に根ざした住文化の継承に貢献していきたい。同時に、誰もが自らの手で空間づくりに関わることができる、そんな暮らしの可能性を広げていきたいと考えています。