西田徹

日々の何気ない交流でこそ、
まちはもっと魅力的になる

西田徹

教授

住環境・まちづくり領域

Profile

1964年生まれ、大阪府出身。
専門分野は建築計画学。1982年に上京し、浪人・大学時代を東京の渋谷で過ごす。
1994年、新潟大学建設学科の助手の職を得て新潟市内に居を移し、1998年には武庫川女子大学生活環境学科の講師の職を得て芦屋市内に居を移す。
2010年には自邸の設計をきっかけに大阪市西区に移り住み、現職。現在に至る。

まちをつくっていくのは日常の交流である

「まちづくり」というと、建物の建設やイベントを想像するかもしれません。ですが私はそういった“目に見える成果”よりも、日々の中で自然に生まれる人と人との交流こそがまちを形づくると考えます。

私の興味対象は、まちをつくり、発展させる人々のつながり。カフェでの何気ない会話、顔なじみの店主との挨拶、犬の散歩中にすれ違う人とのコミュニケーション、子育て中の親どうしの支え合い――そういった日常のやりとりの積み重ねが、まちの魅力を生み出している。住民どうしのつながりがどこで生まれ、どう続いていくのかを観察し、まちが持続的に成長していくためのヒントを探る研究を行っています。

「○○ちゃんの飼い主さん」そんなつながりこそが強い

たとえば、犬の散歩をしている人に話を聞くと「犬の名前は知っているけれど、いつもあいさつする飼い主さんの名前は知らない」なんて話がよく出てきます。それでもその関係には、あたたかさや安心感がある。時には、そういった静かでやさしいつながりこそが、人の生き方に大きな影響を与えたりもするものです。

私はそんな“ゆるやかなつながり”の力を研究対象としています。研究では一斉アンケートなどで数を集めるよりも、一つひとつの関係性を丁寧に見ていく「質」を重視。

日常の中で交わされる小さなコミュニケーションをひもとくことで、人がまちに愛着を持ち、居場所を見つけていくプロセスを明らかにします。

最近だと、大阪・関西万博でも知見を得ました。万博へは30回以上訪れましたが、パビリオンごとに設けられた休憩スペースなど至る所で、見知らぬ人同士が自然と会話を始める様子が多く見られました。知的好奇心を刺激する場ということもあるためでしょうか、「どこから来たんですか」「何度目の訪問ですか」「こんな順番で見て回ると面白いですよ」といった会話が発生し、人々はゆるやかにつながって笑顔を交わす。「ここでのこういった体験が街中に持ち帰られ、新たなつながりを生み出すきっかけとなるのだろう」と予感させるシーンにたくさん出会い、大変興味深かったです。

草の根の交流を広げ、誰もが安心できる地域へ

まちは専門家がつくるものではなく、そこにいる人たち自身が育てていくものです。立派な施設やお金をかけたイベントに頼らなくても、草の根のつながりが広がれば、まちはもっと魅力的になる。皆さんにもぜひ「自分がまちの一部をつくっている」という意識を持ってほしいと思います。

今やライフワークとなった調査ですが、いずれは研究を本にまとめ、多くの人と共有する予定。誰もが安心して暮らせて、日々がちょっと刺激的で、つながりのあるまち。その未来は、いつか突然やってくるのではなく、今日のささやかな会話からもう始まっているのです。

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