古き建築の記憶をたどり、
その奥にある物語を探る
西山雄大
Profile
静岡文化芸術大学デザイン学部デザイン学科特任助手を経て、2025年4月より現職。博士(工学)、一級建築士。
専門は近代建築史。同じ研究室出身の仲間と立ち上げた一級建築士事務所AAAA(エーヨン)の共同主宰者。
現状への問いから始まった、建築との新たな関わり
「大きくて美しく豪華な建物ばかりが“建築家の作品”として称賛される」。この評価に、私はずっと違和感を抱いていました。
建築は一人の建築家の手によって完成するものではなく、多くの人々や組織の協力によって形づくられるものです。その全体像にこそ、建築の本質があるのではないか。この思いが、私の研究の出発点となりました。大学卒業後、建築家として働く中で設計に必要な情報のリサーチに夢中になり、学生時代の研究の楽しさを思い出して研究者としての道を選択。今も建築事務所での活動を続けながら、設計と研究の両面に取り組んでいます。
建物の背後にある組織的な営み、そして社会との深い結びつきを探ること。その視点こそが、私の研究における核心です。

建築の裏側にあるものに光をあてる試み
私の研究は、建築を「誰が、なぜ、どのように作ったか」という視点から見直すことにあります。特に注目しているのは、日本が近代国家として整備される過程で建設された官公庁の建物で、今はたばこや塩の専売制度を支えた「専売局」の建築計画を中心に研究しています。
専売局の建物は、全国で同じ建物を同じ品質で一斉に建てるという大規模な国家プロジェクトでした。これは、近代国家としての姿勢・勢いを象徴するものであり、その建設過程には多くの人々が関わり、さまざまな組織の力が集結していました。私の研究は、設計図や写真、絵はがき、そして公文書などの資料を収集し、断片的な情報を組み合わせていくことで、建築の背後に隠された意図や仕組みを明らかにすることを目指しています。
建築は一人の天才の成果ではなく、多くの人と制度による総合的な営み。その全体像を描き出すことを目指しています。

過去を読み解き未来に生かす手がかりを
今、日本は人口減少と少子高齢化という大きな転換期にあります。これにより、新しい建物を建設するだけでなく、過去の建物をいかに生かすかが重要な課題となっています。私の研究は、過去の建築がどのような意図で作られ、どんな判断や手続きで生まれたのかを丁寧にたどることにあります。これによって、未来の建築やまちづくりに対する示唆を得ることができると信じています。
建築は、ただのモノではありません。関わった人々の思いや工夫、さらにはその時代の社会制度までが反映された「社会のかたち」です。建築物そのものが持つ意味を理解することは、社会の変遷を深く読み解くことでもある。その全体像に目を向けることで、未来に向けてどのように生かすべきかの手がかりが見えてくると私は考えています。
また、先人たちが都市や建築の計画を通じてどのような社会を構想し、それがどのように実現したのか、または挫折したのか。こうした歴史の細かなプロセスを掘り下げることは、現代社会への重要な示唆をもたらすはずです。こうした学びを未来の建築や都市計画に生かし、より良い社会の構築に貢献することが、私の研究者としての使命です。