クリエイティビティを取り戻せ。
衣類製作のカギは裁断にある
坂口建二郎
Profile
複数のアパレルメーカーでハウスブランド、ライセンスブランド、デザイナーズブランドを経験。現在はさまざまな角度から「洋服」を研究・生産している。
快適な服作りはパターンが決め手
どんなにおしゃれでも、着ていて窮屈だったり動きにくかったりする服を毎日着たいとは思えないでしょう。服は、着る人の体と動きに寄り添うように作られるべきもの。服を作る上で大切なのは快適さです。
そして快適さは生地や縫製の質だけでなく、設計図にあたる「パターンメイキング」の力によって大きく変わります。本当に優れたデザインとは、見た目の美しさだけでなく動きやすさや肌ざわり、シーンに合わせた機能性まで含めて考えることである――。その前提に立ち、今、デザインの根本となる“快適な服作り”を見つめ直す研究に取り組んでいます。

次の世代へ、得たものをつなぎたい
高校生の頃からファッションの世界に憧れ、ファッションを学べる地域の短大に進学しました。その後、専門学校で知識と技術を深めアパレルメーカーに就職。卒業後は希望を叶え、パターンメーカーとしてハウスブランド、ライセンスブランド、デザイナーズブランドなど、20年以上にわたりさまざまな現場で経験を積みました。
長く制作の現場に立ち続けて「自分の仕事はやりきった」という気持ちが芽生えた頃、次に進むべき道として選んだのが教育の現場です。今度は自分が培ってきた技術や感覚を、次の世代に伝えていきたい。そう考えて研究と指導に取り組むようになりました。

「平面」と「立体」をつなぐ設計のちから
現在、私が行っているのは「平面裁断(ドラフティング)」と「立体裁断(ドレーピング)」を融合させた設計手法の研究です。さらに、3Dモデリングの視点も取り入れながら、体にぴったりフィットし、かつ動きやすい服を設計する技術を探求しています。
近年、アパレル業界ではコンピュータによる平面設計(CAD)が主流になっていますが、その分、実際に立体を確認する工程が省かれがちです。それにより完成時のフィット感や快適さ、さらにはデザインの自由度が損なわれている場面も少なくありません。
またファストファッションの広がりにより、スピードとコストが優先される風潮が強まり、服作りの質が犠牲になっているとも感じています。だからこそ私は、あえて手間のかかる立体検証を大切にし、服の本来の魅力と可能性を再発見しようとしています。

デザインの力を再発見し、未来の服づくりへ
今、服作りの現場では「効率」や「安さ」が重視されすぎて、「創造」の価値が軽く見られがちです。しかし私は、こうした時代だからこそ、一度立ち止まり、服の本質や面白さを見直すことが大切だと考えています。
スピードや価格だけに縛られない、もっと人に寄り添った、創造的な服作りの価値を取り戻したい。それが私が描く未来へのビジョンであり、研究の原動力。平面と立体、そしてモデリングという異なる視点を掛け合わせることで、新しい服作りの可能性がきっと広がるはずだと信じています。