オールドタウン化したまちに、
再生を促す新たな息吹を
水野優子
Profile
専門は住環境計画、都市計画、まちづくり、住宅政策。計画的住宅市街地や集合住宅を対象とした持続可能な住宅地や地域コミュニティの形成・再生を主な研究テーマとする。
著書に「都心・まちなか・郊外の共生」(晃洋書房、共著)、「鉄道と郊外 駅と沿線からの郊外再生」(鹿島出版会、共著)など。
思い入れのある存在に新たな興味が芽生えて
大学卒業後、一度は企業へ就職しましたが、そこで都市計画に関わる人々と出会ったことで人生が大きく変わりました。まちの未来を構想し、かたちにしていく仕事に惹かれ、学び直したいと大学院へ進学。特に興味を持ったのが1960~70年代に全国で整備されたニュータウンです。私自身もニュータウンで生まれ育ちました。
年月とともに浮き彫りとなる高齢化や空き家といった課題に「どうにかできないか」と考え始めたことが研究の出発点です。

団地と鉄道の関係から、まちに再生の芽を探して
主な研究テーマは、老朽化した公的団地の再生です。
団地は今、地域の活力をどう取り戻すかが問われているところ。UR武庫川団地では、学生と共にURや鉄道会社、大学などと連携し、交流スポットの創設など団地内に新たな風を吹き込む取り組みを継続してきました。並行して住民への意識調査も行い、関係者への提言を実施しています。
浜甲子園団地では約20年にわたる建て替え事業に注目し、エリアマネジメント組織による活動を提案しました。立て替え事業に関わる民間事業者を巻き込んで、既存の自治会と一緒にまちづくりの取り組みを行う団体を結成。その結果、マネジメント組織はマルシェの開催や清掃活動、夏祭りの支援などを行い、地域の活性化に貢献しています。また今年度、長年の建て替え事業が終了するにあたり、プロジェクトとまちの変化を振り返って検証するための調査研究も進めています。
研究の柱のもう1つが、鉄道とまちづくりの考察です。
日本、とりわけ関西では、近代期以降、都市の形成に鉄道事業者が深く関わってきました。たとえば西宮市も100年前はほぼ農村地帯でしたが、大阪と神戸が鉄道でつながり、阪神電鉄が甲子園一帯を開発するなど、鉄道ができたことで周辺にまちができてきました。
こういった郊外住宅地は、計画的な都市作りという意味ではニュータウンに通じるものがあります。人口減少や高齢化が進む現代において、面積に対して人口の少ない、さびしいまちとしてさまざまな課題を抱えるようになったのもニュータウンと同じ。
そんな中、かつて郊外住宅地の発展を形づくってきた鉄道会社は、今、人口減少時代にふさわしい新たな都市の姿を模索中です。鉄道会社が提供する高齢者支援サービスや土地の再開発事例などを通じ、暮らしと交通の新しい関係を見つめ直す研究を進めています。

一人ひとりの力がパズルを完成させるピース
まちの課題は、もはや一つの立場や組織だけで解決できるものではありません。特にニュータウンのように住宅と小さな商店しかないような地域では、外部との連携が不可欠です。
私は大学という立場から地域とつながり、学生と共に課題を見つけ、提案・実践していくことを大切にしています。それぞれの主体が持つ力をパズルのように組み合わせて社会課題を解決していく。そんな未来を思い描き、研究に取り組み続けます。