暮らしの疑問は生活の中に。
材料から解き明かしていく
竹本由美子
Profile
同大学で助手として勤務後、奈良女子大学大学院 人間文化研究科 共生自然科学専攻にて博士後期課程修了(理学)。
本学の生活環境学科、助教授・講師を経て現職。
衣料管理士、繊維製品品質管理士に関する資格科目を主に担当し、人が快適に安全に健康的に過ごすために必要な繊維材料の性能を科学的視点から研究している。
靴の中はどういう状態?
素朴な疑問が研究の出発点
皆さんが普段着ている衣服やインテリア製品。使っていて不便や疑問を感じることはありませんか。研究では日常の疑問を解明し、快適で安全に持続可能な生活を実現する繊維材料の可能性を科学的に検証しています。たとえば、靴を脱いだ時に感じる足の“ムレ”。「靴の中はどういう状態になっているんだろう」という疑問を出発点に、靴内にセンサーを装着して、生活行動での靴内の温度や湿度変化を測定。靴内の温湿度と足のトラブルとの関連性を解き明かし、靴下や靴の選び方、着用方法など足元から私たちの健康を考えます。

靴と靴下の中の快適性に
スポットを当てデータ化する
この“足元”に注目するきっかけとなったのが、靴下を履いた祖母が室内ですべって転倒しそうになる瞬間を目の当たりにしたこと。事故の可能性があるのに、靴下と床材の関係性を意識している人は少ないのでは?と思ったことが研究の出発点です。室内転倒の予防を目的として、靴下やストッキングでフローリングや畳を歩く時の“すべり性”を繊維素材の観点から検討された事例は多くありません。実は衣服内の快適性については、これまで多くのことが明らかになっていますが、靴や靴下内の快適性に関しての検証はまだ不十分です。人によって感じかたが違う「快適」をデータ化し、実際の快適・不快のギャップの原因を明らかにする研究も進めています。

人への影響を新たな視点に
防災について取り組む
私は本学の生活環境学科のOGでもあります。学生時代から繊維材料に関心があり、学びを深めてきました。繊維材料の研究を続ける中で、実際に使う側である人が「どう感じるか」に興味が生まれ、「繊維材料が人に与える影響」を新たな視点に研究を進めています。また、私の研究は“防災”もキーワードのひとつです。衣服は着る人を印象よく見せたり、身を守ってくれたりするもの。しかし、命を奪う場合もあることはあまり知られていません。災害時、濡れた衣服を着替えられず、低体温症になった人が大勢いたことがわかっています。また、酷暑での避難所生活を体験する演習にも参加し、備蓄品として着替えの衣服の必要性やどのような衣服を準備すべきか、防災の研究者と共同で研究に取り組んでいます。

自分の身の回りに目を向け
「気づきのチカラ」を育てる
猛暑や極寒、時には災害といった過酷な環境に対して、私たちのもっとも身近にある「衣環境」をどのように整えるかが、快適で安全、健康な暮らしを実現する上で重要な課題となります。今までと異なる気候や日常生活を想定して、人の身体がどのように反応するかをデータ化し、快適性との関連を明らかにすることは、これからの未来に役立つと考えます。身の回りや日常の生活にこそ、疑問や改善の種があります。大学での学びを活かし、みんなの快適な暮らしのための「気づきのチカラ」を育ててほしいと思っています。